病院生活5〜6日目
気のせいならば良いが。
身体が重くなり、集中力も散漫に感じる。
連日、点滴に見下されているからだろうか。空腹という訳ではないのだが、周りの患者が食事を取っているのを見るのが辛い。
午前中に母から連絡が来た。
紹介状を持って向かった病院の受け入れが難しいらしい。
昨日いまの病院の婦長と医師に事情を話し、受け入れを希望する病院への紹介状を書いてもらったのだ。
もし受け入れ先の病院が見つからなければ、退院もできない。ただ、この点滴生活で時間を浪費することになる。
私は何も考えられずベッドに横たわった。
目をつぶると鼓動が伝わってくる。少し息が荒い。自分でも分かるほど混乱している。
判断は正しくなかったのか?
どうしたら一番良いんだ?
むなしい自問を続け、眠りに落ちた。
「寝ているところごめん。ちょっと向こうで話そうか。」
声で目が覚めると母がベッドの横のイスに座っていた。
私は眠い目をこすり、同じフロアの談話室まで一緒に向かった。
「他の病院を紹介してもらったの。Z病院。ここなら受け入れてもらえそう。」
私は母が持ってきたZ病院のパンフレットに素早く目を通した。
「家からも近いし、有名な大学病院よ。専門の医師もたくさん常駐しているらしい。」
これは…、久しぶりの良い話じゃないか!
ここに転院できれば手術の不安もずっと減るに違いない。
「ただね」
母を見ると私の内心の喜びほど顔は明るくない。
「いまはベッドがいっぱいなんだって。予約はしておいたから連絡は来るんだけど。それが数日なのか一週間なのか、もっとなのか、分からないのよ。そうすると年内に退院、っていうのも難しくなると思うわ。…どうする?」
母自身もどうすべきか迷っているのが伝わってくる。
私にとっても入院期間がまた伸びる、その事実はとても重たいものだ。
私は言葉通り、本当に頭を抱え、栄養が足りていない脳で必死に考えた。
数十秒か、それとも数分か。沈黙を破ったのは私の方だった。
「私はZ病院を希望するよ。理由はいまの病院でも、年内退院は順調に行った場合の話しだ。何かあればこのまま居ても時間がかかる事は起こるかもしれない。それならまず、手術に安心できて親の家に近いZ病院に移ろう。」
私が矢継ぎ早にそう伝えると、母も決心した様だ。
そしてすぐに婦長に転院の旨を伝え、予約していた検査もキャンセルした。
これが本当に正しい判断だったかは分からない。
しかし、本当に自分の身体の事を思った時に出た本心の言葉だった。
まだ手術は始まってはいない。
だが私たち家族の決断と努力が、少しでも良い結果に繋がればと祈ることしか今はできない。