緊急入院
あのサイレンが近づいてくる。
少しずつ大きくなる音が、自分を助けに来るためにやって来ると思うと不思議な気持ちになる。
私は119の後、少し冷静になった。
上着をかぶり、財布を持ち、靴を履いて玄関で体育座りをして待っていた。
「救急車を呼ばれた本人ですね。ご自身で歩けますか?」
「はい。」
3人の緊急隊員は落ちついており、私を連れて救急車まで歩いた。
初めて入る救急車の中は、見慣れない機器に囲まれ、どんな患者にも対応できるような頼もしさがある。
私は横たわり、緊急隊員に自分の状況を可能な限り伝えた。
また忘れずに持ってきた、紹介状を渡した。
「○○医院への紹介状ね…。ここは救急指定医院ではないけど、電話してみよう」
運転席の隊員が電話を始める。私はなぜか聞きたくない気持ちに襲われ、眼を閉じる。しかしかえって音に集中してしまい、会話が聞こえて来るのだ。
「…紹介状をもって…、はい…、…名前は…、そうですね。…、はい…、はい。分かりました。夜分にすみません。ありがとうございました。」
結果は駄目だった。
私も夜間の救急患者の受け入れ先を見つける事は難しい、という現実は分かっていた。
しかしいざ自分が体験すると、胸が締め付けられる。
緊急隊員はすぐにいくつかの病院の候補を探してこう言った。
「このA病院は消化器系の当直はいないから応急処置になると思います。けどここなら受け入れてもらえそう。ここに向かって良いかな?」
私は応急処置で構わないし、自分に選択肢がないことも理解していた。
「お願いします」
救急車は再びサイレンを鳴らし、走り出した。内側から聞くその音はどこか冷たく、白い天井を見つめながら身体を揺らしていた。
救急車が止まり、私はあおむけに寝たまま運ばれた。
暗い夜空の視界の中に「救急入口」の赤いサインが目に入った。私は自分が重度の病人だと気づかされ、ギュッと拳を握りしめた。
その後の記憶はおぼろげだ。点滴を打たれ、検査をされ、いくつかの書類をその場で書かされた。
入院手続きの書類を書いているとき、日付をみてふと感じた。
12/5。
厄年に終わりを告げる24歳の誕生日まで、あと10日を残した夜の出来事であった。