入院の一週間前
いま思えばもっと早く気づいていれば、と後悔する事が多すぎた。
私は23歳の会社員♂だ。毎日の仕事に追われながらも充実した日々を送っていた。
しかし入院の一週間前から身体に突然変化が訪れ始めた。
仕事帰りの外食中にふと「腹のあたり」が痛む。
何だろう?
食当たり?食べすぎ?カゼかな?いやもしかしたらインフルエンザ?
アタマの中をいくつか候補がよぎるが、原因は分からない。
痛みは少しずつ強くなり、確かな鈍痛を自覚しはじめた。
私は痛みと不安な気持ちを抱え、家まで歩きはじめた。
一人暮らしの自宅に戻ると、スーツも脱がずにベッドに転がりこむ。
「痛い!痛い!痛い!痛いっ!」
脈打つ様に一定の感覚で痛みが響く。
このまま寝てれば痛みは収まる…だろうか。
そう自分に信じ込ませて布団にくるまる。
…。
痛い。
腹痛、ではないかもしれない。もっと上?
今までに体験した事のない痛み。奥側から肉ごとえぐられているような痛み。
どうしたら良いか分からず、母親に電話をかける。しかし出ない。
父親にもかけるが、こちらも出ない。
私は携帯電話を手にとり、「119」と打った。もちろん救急車を呼ぶのは初めてだ。
しかし、なかなか通話ボタンを押せない。
「もう少ししたら痛みも収まらないか?」
「ここは会社の寮だ、噂されてしまう…」
迷いがあと一歩を踏み出せない。
痛みにもがきながら呆然としている中、母親から電話がかかってきた。
「もしもし、どうしたの?」
「っかあっさん…、腹がさ痛すぎて我慢できない、んだよ。どうしたらいいかな?」
自分が声も出ない状況だと気づき、内心焦りながらも話を続けた。
「なに!お腹痛いの!?食中毒かもよ、救急車呼びなさい。それか友達を!」
「救急車は…、もしかしたら治るかもしれな、いし」
「あなたが呼べないなら私が呼ぶわよ!住所言って!」
「…、っいや、自分で呼ぶよ。またれ…んらくする…から」
私は母との電話を切り、少しの葛藤の後、ついに119と通話ボタンを押した。
「っあ、もし…もし」
「消防ですかー?救急ですか?」
「あのっ…、お腹が痛く…て。どうしたら良いか…分からなくて。相談…したいのですが」
「救急車を呼ぶ時に電話して下さい。どちらにしろ病院に行った方が良いと思いますよ。では。」
ツーツー
必死の思いでかけた電話は30秒ちょうどで切れていた。
怒りのような悲しみの感情を飲み込み、同じ寮に住む友人に電話をかけた。
「もしもし、どしたー?」
「た、頼みがある…、んだ。今すぐ俺の部屋にきてくれないか?はらが、腹がさ痛くて救急車を呼ぼうと、…思ってるんだ」
「分かった。すぐ行く。」
友人はすぐにきて、私の状況を確かめた。
そして直ぐに全て吐くように、と私に言った。
私はトイレまで這いずり、手をのど奥まで可能な限り突っ込み、吐き続けた。
胃液が出るまで吐き続けた後、ようやく痛みは収まったのだ。
友人に感謝の言葉を述べ、ようやく安心して布団についた。
しかし一時間もしないうちに、また痛み始めたのだった。
何だ?俺の身体はどうなってるんだ?
そう思いながらも、私はトイレで何も出せずに突っ伏していた。
そんな事をその夜は2、3回繰り返した。
そしていつの間にか朝を迎えていた。